日本の住宅市場は、いま大きな転換点に立っている。総務省の住宅・土地統計調査によれば、全国の空き家数は約900万戸、
空き家率は13%台後半と過去最高水準に達している。住宅は「足りない」時代から「余る」時代へと完全に移行したと言える状況だ。
空き家が増える背景には、人口減少や高齢化、相続後に活用されない住宅の増加、地方から都市部への人口流出など、複数の構造的要因が重なっている。
特に地方や郊外では、需要に対して住宅供給が過剰になり、使われないまま放置される住宅が目立つようになっている。
こうした空き家問題は、社会課題であると同時に、不動産投資の視点から見ると「市場構造の変化」を示す重要なシグナルでもある。
単純に新築アパートを建て続けるモデルが通用しにくくなり、既存住宅をどう活用するかが問われる時代に入っているのだ。
■空き家と不動産投資の関係
空き家が増えるということは、住宅供給が需要を上回っていることを意味する。
これは、エリアによっては賃料の下落圧力や空室リスクの上昇につながる可能性がある。
一方で、空き家の中には立地条件が良く、適切に手を入れれば十分に活用できる物件も存在する。
実際、古い戸建住宅をリフォームし、賃貸として再生する動きも少しずつ広がっている。
空き家を単なる「負の資産」と捉えるのではなく、再活用することで社会課題の解決と収益確保の両立を目指す考え方だ。
ただし、空き家投資は「安く買えるから儲かる」という単純な話ではない。
需要が乏しいエリアでは、いくら安く取得しても借り手がつかない可能性がある。
改修費用や維持管理費がかさみ、想定した収支にならないケースも珍しくない。空き家活用には、立地や周辺環境、賃貸ニーズの見極めが不可欠である。
■戸建賃貸という存在
こうした文脈の中で注目されているのが「戸建賃貸」だ。戸建賃貸とは、文字通り一戸建て住宅を賃貸として貸し出す形態を指す。
国土交通省の資料などを見ると、賃貸住宅全体に占める戸建賃貸の割合はおおよそ2%程度とされている。
つまり、アパートやマンションと比べると、戸建賃貸の供給は非常に少数派だということになる。
この数字だけを見ると、「戸建賃貸はニッチな市場」と感じるかもしれない。
しかし、供給が少ないということは、見方を変えれば「競合が少ない」とも読み取れる。大量供給されているアパート市場とは異なり、
戸建賃貸はエリアによっては希少性がある住宅形態と言える。
■需要はどれくらいあるのか
戸建賃貸の「需要が賃貸全体の何%か」という統計データは、公的機関からは公表されていない。
そのため、数字で「◯%」と断言することはできない。ただし、複数の調査や市場動向から、一定の需要傾向は読み取れる。
例えば、以下のような動きが確認されている。
・子育て世帯を中心に「広い住空間」「上下階を気にしなくていい住環境」を求める層が一定数存在する
・マンション購入を検討しつつも、住宅ローンや将来のライフプランを考え、あえて賃貸を選ぶ層がいる
・テレワークの普及により、在宅スペースを確保しやすい戸建住宅への関心が高まっている可能性がある
・転勤族や「将来どこに住むか決めきれない」層にとって、購入ではなく戸建賃貸という選択肢が合理的なケースもある
これらの傾向から、「戸建に住みたいが購入までは踏み切れない層」が一定数存在し、その受け皿として戸建賃貸が機能している可能性があると読み取れる。
実際、賃貸市場では「ファミリー向け物件」の供給が限られているエリアも多い。アパートは単身者向けが中心になりやすく、
広さや間取りの点でファミリー層のニーズと合わないケースもある。その点、戸建賃貸はファミリー層の居住ニーズと相性が良い住宅形態だと言える。
■なぜ供給が少ないのか
戸建賃貸の供給が全体の約2%にとどまっている背景には、いくつかの理由がある。
まず、アパートやマンションは「1棟で複数戸を貸せる」ため、土地あたりの収益性が高い。
金融機関の融資もアパート向けの方が制度として整っており、事業化しやすいという側面がある。
一方、戸建賃貸は「1棟1戸」であるため、管理効率や収益効率の面で不利になりやすい。
また、建物の修繕も個別対応になるため、コスト管理が難しいと感じるオーナーも多い。
こうした理由から、事業として大量供給されにくく、結果として市場シェアが低い状態が続いていると考えられる。
■空き家時代における戸建賃貸の意味
空き家が増え続ける中で、戸建賃貸は「空き家活用の一つの形」として位置づけることができる。
すでに建っている住宅を活用するため、新築供給を増やすよりも社会的コストは低いと考えられる。
また、供給が少ない市場であるがゆえに、エリアを選べば競合が少なく、差別化しやすい可能性もある。
もちろん、すべての空き家が戸建賃貸に向いているわけではないが、駅距離や周辺環境、学校区など条件の良い物件であれば、
一定の需要を取り込める余地があると読み取れる。
重要なのは、「空き家だから」「戸建だから」という理由だけで投資判断をしないことだ。
周辺の賃貸需要、想定賃料、修繕費、将来の出口戦略まで含めて検討する必要がある。そのうえで成立する物件であれば、
戸建賃貸は空き家時代の不動産投資における有力な選択肢の一つになり得る。
■まとめ
日本では空き家が増え続け、住宅市場は構造的な変化を迎えている。
その中で、戸建賃貸は賃貸住宅全体の約2%という少数派でありながら、一定の需要が存在すると読み取れる分野だ。
ファミリー層や広い住空間を求める層、購入に踏み切れない層など、戸建賃貸を必要とする人は確かに存在している。
一方で、すべてのエリアで成立するわけではなく、立地や需要分析が不可欠である点は忘れてはならない。
空き家問題という社会背景を踏まえつつ、冷静に数字と市場を見極めたうえで選択すれば、戸建賃貸は「地味だが堅実」な不動産投資戦略になり得る。
派手な成功事例だけに目を向けるのではなく、現実的な需給と収支を積み上げていく姿勢こそが、これからの不動産投資に求められていると言えるだろう。