不動産投資において、金融機関の融資承認は重要な節目のひとつです。
「事前審査が通った」という言葉を聞けば、誰しもほっと胸をなでおろしたくなるでしょう。
しかし、そこには落とし穴があります。
それは、「融資が下りたときには、肝心の物件が他の買主に取られていた」という事態です。
実はこのケース、現場では決して珍しくありません。とくに市場に良い物件が少ないとき、あるいは現金客が多く出てきたときに頻発します。
こうした状況を防ぐためには、「融資打診と買付証明書の提出を同時に行う」ことが極めて重要です。
本コラムでは、この“買付と融資打診の同時進行”について、現場での実体験を交えながら詳しく解説します。
多くの初心者投資家がやりがちな行動パターンがあります。
それは、
「物件は気に入った。まずは融資が出るかどうか確認しよう。通ったら買付を出そう」
という流れです。
一見すると非常に理にかなった判断のように見えます。
無駄な買付を出さず、金融機関の反応を見たうえでリスクヘッジもできているように思えるでしょう。
ですが、現実の市場はそれほど悠長ではありません。
優良物件には、常に複数の投資家が目を光らせており、タイミングを争っています。
金融機関の事前審査が出るまでには、通常3日〜1週間ほどかかります。
そのあいだ、他の買主が買付証明を先に出していた場合、売主はそちらと交渉を進めていくのが自然です。
「融資通りました!買います!」と言ったときには、
売主から「あ、もう他に決まっちゃいました」と言われる――。
これは、投資家がもっとも避けるべき「空振りのパターン」です。
投資歴の長いプロの投資家は、口を揃えてこう言います。
「買付は“早い者勝ち”。迷ったら出せ」
なぜ彼らは、融資の見通しが立つ前でも買付証明書を先に出すのでしょうか?
それは、不動産取引において「買付証明=予約チケット」であることを知っているからです。
買付証明書には法的拘束力はありませんが、売主や仲介にとっては“意志表示の最たるもの”です。
この書類が入った段階で、物件は“交渉中”という扱いになり、それ以降の内見や案内が止まるケースも多々あります。
また、買付証明を出した後に、以下のような交渉も可能になります。
つまり、買付証明を出すことで初めて“交渉の土俵”に上がれるのです。
投資家がやるべきは、買付と融資打診の並行処理です。
「どちらかを待ってから動く」のではなく、「同時に動かす」のがコツ。
実務上のフローで言えば、
この流れが最もリスクが低く、スピード感のある進め方です。
特に金融機関の事前打診に慣れていない初心者にありがちなのが、融資打診資料の作成に時間がかかり、そのあいだに物件が消えるケース。
こうした“チャンスの喪失”は、最ももったいない失敗です。
ここでひとつ、初心者が誤解しがちな点を正しておきます。
それは、
「買付証明を出したら、契約しなければいけない」
という思い込みです。
実際には、買付証明書はあくまで意思表示であり、契約書とは異なります。
融資が出なければ契約できないことを事前に伝えておけば、トラブルになることもほぼありません。
むしろ、誠実な投資家ほど買付時点でこうした条件を明記しています。
この一文があるだけで、後々のトラブルを避けることができるのです。
不動産投資は、「良い物件を買えるかどうか」が成功の8割を占めるといっても過言ではありません。
そして、良い物件は待ってはくれません。
融資の承認を待ってから動くのではなく、融資打診と買付提出は同時に。
これが、競争の激しい市場を勝ち抜くための“最善策”です。
「迷ったら買付を出す」
「交渉の土俵に立つために、まずは買付を入れる」
「融資が通った頃には物件が消えている」ことのないように――。