不動産投資や売買を検討している方の中には、「中間省略」に対してネガティブな印象を持っている方も少なくありません。「中抜きされて損するのでは?」「透明性に欠ける」「騙されるのでは?」といった声がネット上でも散見されます。
しかし、現実の不動産市場では、「中間省略」を柔軟に受け入れないとチャンスそのものが手に入らないケースもあるのが実情です。
本コラムでは、中間省略とは何か、なぜ誤解されるのか、そして中間省略によってこそ“いい物件”が買える背景について、現場の視点からわかりやすく解説します。
「中間省略登記」とは、売主から買主へ直接物件が移転登記される手法ですが、実際の取引構造としては、
①売主 → ②中間業者(A社) → ③買主
という流れのうち、②を形式上省略して、①→③にするケースを指します。
ただしここで誤解が多いのが、「A社は介在しない」ということではありません。実際は、A社が裏で売主と交渉し、条件をまとめ、買主に物件を紹介するという重要な機能を担っているのです。
Googleで「中間省略」と検索すると、以下のようなネガティブな記事やQAがヒットします。
– 「中間省略は違法では?」
– 「不当に高く買わされるのでは?」
– 「売主の承諾なしに中間省略するとトラブルになる」
– 「中間業者が利益を抜くだけでは?」
こうした情報は一部事実を含んでいるものの、「中間省略=搾取」というイメージが独り歩きしてしまっています。特に一般個人の買主は、不動産のプロセスに慣れていないため、「知らない=怖い」という心理が働きやすくなります。
不動産を売却しようと考えたとき、最初に思いつく相談先はどこでしょうか?
ほとんどの個人売主は、最初に不動産会社へ相談をします。
つまり「いい物件」が市場に出る前に、すでに不動産会社が把握しているわけです。
このとき、売主が求めるのは「確実な売却」と「早期の現金化」です。価格よりもスピードを重視する売主も多く、「この金額で、すぐ買ってくれるなら」という条件が成立しやすいのも事実。
その“すぐ買える買主”とは、不動産会社、あるいはそれとつながっているプロの投資家であることが多いのです。
たとえば以下のような物件をイメージしてみてください。
– 相続で売却が急がれている
– 空室が出始めており、利回りが悪化しそう
– リフォーム済で即入居可能
– 管理会社との関係が良好で、長期保有にも向いている
こうした「条件は良いが、スピード感が必要な案件」は、そもそもレインズやポータルサイトに出る前に、プロの間で消えていくことが多いのです。
その裏には、
「売主 → 不動産会社A →(中間省略)→ あなた」
という構造があるのですが、中間省略というだけで拒否してしまえば、こうした“美味しい物件”は一切手に入らなくなります。
中間省略が嫌われる理由の多くは、「利益を抜かれている」という感覚です。
確かに中間業者(A社)は、「売値と買値の差額」を利益として得ます。これを「抜いている」と感じる方もいるでしょう。
しかし、この「差額」こそが彼らのリスクと責任に対する対価です。
– 売主との交渉、価格調整
– 買主への情報提供・契約書作成サポート
– 融資・決済の段取り
– 表に出せない事情を抱えた案件の調整
これらの“見えない仕事”を引き受けているのが中間業者です。
不動産業界のプロセスは極めて煩雑で、トラブルも多く、「安心して買える状態」に整えてから売る役割を担っています。
中間省略の物件であっても、買い手にとっての明確なメリットがあります。
誤解してはいけないのは、「中間省略=ズルい手法」ではないということ。
むしろ、
・売主は早期売却できる
・中間業者は利益を得る
・買主は他より早く物件を手に入れられる
という“三方よし”が成り立っている構造なのです。
この視点がないまま、「抜かれているからNG」としてしまうと、そもそも良い物件があなたの前に現れることすらなくなります。
不動産取引において、中間省略を一律に否定する姿勢は、結果的に「機会損失」につながります。
もちろん、内容をしっかり確認し、リスクを精査することは大切です。しかし、不動産は「情報戦」であり、「関係性」が価値を生む業界。良い情報は水面下で動いています。
中間省略でもWin-Winな取引は実現できる。
その視点を持つことが、これからの不動産投資・購入者に求められる“思考の柔軟性”ではないでしょうか。